お誕生日ばんざい


松田道雄さんの『定本育児の百科』は、1960年代に初版が出た古い育児書だ。我が家も第一子誕生の際に知人からこの本をいただき大変お世話になった。


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松田 道雄

岩波書店
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先日、友人の娘さんが一歳の誕生日を迎えた。その友人が始めての育児にとても苦労をしているのを知っていたので、一歳のお祝いに『育児の百科』に出てくる文章を紹介しようかなと思ったけれど、結局躊躇した末に紹介するタイミングを逸してしまった。今までの経験で、この本は、割と好き嫌いがはっきり別れるということを知っていたからだった。


だけれどもまあ好みが合う人もいればと思うのでちょっと引用してみようと思う。「お誕生日ばんざい」と題された一節だ。

 誕生日おめでとう。
 一年間の育児で母親としておおくのことをまなばれたと思う。赤ちゃんも成長したけれども、両親も人間として成長されたことを信じる。
 1年をふりかえって、母親の心にもっともふかくきざみこまれたことは、この子にはこの子の個性があるということにちがいない。その個性を世界中でいちばんよく知っているのは、自分をおいてほかにないという自信も生まれたと思う。その自信をいちばん大切にしてほしい。 
 人間は自分の生命を生きるのだ。いきいきと、楽しく生きるのだ。生命をくみたてる個々の特徴、たとえば小食、たとえばたんがたまりやすい、がどうあろう と、生命をいきいきと楽しく生かすことに支障がなければ、意に介することはない。小食をなおすために生きるな、たんをとるために生きるな。
 小食であることが、赤ちゃんの日々の楽しさをどれだけ妨げているか。少しぐらいせきがでても、赤ちゃんは元気で遊んでいるではないか。無理にきらいなごはんをやろうとして、赤ちゃんのあそびたいという意志を押さえつけないがいい。せきどめの注射に通って、満員の待合室に赤ちゃんの活動力を閉じこめないがいい。
 赤ちゃんの意志と活動力とは、もっと大きな、全生命のために、ついやされるべきだ。赤ちゃんの楽しみは、常に全生命の活動のなかにある。赤ちゃんの意志は、もっと大きい目標に向かって、鼓舞されねばならぬ。
 赤ちゃんとともに生きる母親が、その全生命をつねに新鮮に、つねに楽しく生きることが、赤ちゃんのまわりをつねに明るくする。近所の奥さんは遺伝子のちがう子を育てているのだ。長い間かけて自分流に成功しているのを初対面の医者に何が分かる。
 「なんじはなんじの道をすすめ。人びとをしていうにまかせよ。」ダンテ


この文章をどう受け取るかは人によって随分違うのだろうけど、自分の子供が一歳を迎えた時にこれを読んで、涙が重力に逆らって前方に飛び散って北京まで到達するのではないかと思うくらい泣いてしまった。今となってははっきりとは分からないけれど「一年間がんばったな」と背中を叩いてもらったような気がしたのだと思う(ご、強引な解釈....)。


育児は楽しかったし、我が家の場合家族の協力も得られていたので比較的恵まれた環境にあったように思うけど、それでも始めての育児は自信はないし、不安なことだらけだし、孤独感もあるし、それなりに追いつめられた感じはあったのだと思う。そんなときに「ご苦労さん。元気に育ってるじゃん」と語りかけてくれているようだった(ご、強引な解釈....)。


件の友人にこの文章を教えはしなかったけれど、「お誕生日おめでとう。一年間がんばったね」と私なりに声をかけてみた(そういうの超苦手。なんだか肝心な時に緊張してミュージカルみたいになってしまう)。うまく気持ちが伝わったかどうか分からないけれど、育児で不安や悩みを抱えている人が少しでも自信を持ってやっていけたらいいなとは思うので。最近は色々と嫌なニュースが多いけど、子供たちには「ようこそこの世界へ!」っていう気持ちを伝えたいと思うし、それには育児をする人たちが元気でないとだめなのよねっというようなことでしょうか(ご、強引な解釈....)。


とりあえずそんな感じです。ハイ。