『悪党どものお楽しみ』を読みましょう
こどもと本屋にいったらたまたま平積みされたのでなんとなく買ったのだがハマってしまった。文庫の裏表紙には「ユーモア・ミステリー連作集」と謳っている。主人公のビル・パークリーは腕利きの賭博師だったのだが、劇的な更生をとげて賭博師稼業から足を洗い、故郷コネチカットで農夫をしていた。しかしひょんなことで、お金と暇を持て余すとぼけた好青年トニー・クラグホーンと出会ったことをきっかけにして、ポーカーやルーレットなどのギャンブルで行われる数々のイカサマを暴いて悪党どもに一泡吹かせるというようなお話。
作者はパージヴァル・ワイルドで、原題は『Rogues in clover』。「rogue」は悪党。「in clover」はどういう意味かなと思って英辞郎で調べたら「〔生活が〕安楽に、裕福に◆【語源】家畜が豊富な牧草の中にいる様子から」だそうな。トランプのクローバーとかけてあるのはもちろんだが、主人公のビルが牧場を経営していることにもかけてあるのだろう。
1920年代の作品で、端々に古き良きアメリカの精神を窺わせるが、よく考えると古き良きアメリカってなんだ。新しき悪しきアメリカは知ってるけど。そういえばこの作品はトランプの話だった。それはさておき、主人公のビルの言い回しが、昔ながらのアメリカン・ジョーク的な感じでツボにハマってしまった。一例をあげるとこんな感じ。「良心の問題」の中のビルのセリフ。
だけど自分はたいした手品師だという彼の信念を奪い去るくらいなら、赤ん坊から小銭を盗み取った方がましだよ!
原作も読んでみたい。
『オニのサラリーマン』を読みましょう
『羊と鋼の森』を読んだ。
『羊と鋼の森』を読んだ。
ピアノの調律師の青年が主人公の小説であった。彼が調律師として、そして人として成長する姿が描かれている。2016年本屋大賞第1位だったらしい。確かに読み出すと止まらずに一気に読んでしまった。調律師としての側面がやはり最も面白いのだが、それ以外にも弟との「和解」の場面、また主人公が調律を担当する家の双子の姉妹の「決断」の場面なども読み応えがある。
ただ、あえて難癖をつけるとすれば、なんというか「汚れた」要素がどこにも見当たらない小説と言えばいいのか、誰にでもある心の闇のような要素は完全に排除されている。それによってファンタジーのような要素がこの作品にもたらされているのかもしれない。
こどもにすすめられて読んだ最初の小説となった。
今年も読めなかったけど来年こそは読みたい本10選
今年はあまり読書の時間を確保できませんでした。来年はなんとか時間を確保していきたいものです。みなさまも良い本と良いお年を。
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筑摩書房
売り上げランキング: 31,080
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『習得への情熱―チェスから武術へ―』を読んだ
原題は『Art of learning』。著者はジョッシュ・ウェイツキン。チェスの神童と呼ばれ、彼の父が息子を題材にして執筆した『ボビー・フィッシャーを探して』は映画化もされている。また、長じて太極拳の世界選手権覇者となったという変態的な人らしい。そんな人が「まなびの術」を語った本。
インスピレーションを得るための公式や型紙は存在しない。だけど、それを得る自分なりの方法を発見するために辿るべきプロセスならある。
と語られているように、「中学英語を3時間学ぶだけで猿でもわかるチェスのすべて」とかいう類のマニュアル本というのとは違います。むちゃむちゃ努力しているのが分かります。だけど努力をする際の意識付けなどによって上達の速さや到達点は自ずと変わってくるし、その意識付けの方法論にはこれこれこういうのがありますよというような内容でした。ざっくり言うと。だから読む人が何を求めるかによって合う合わないはあるでしょう。ただまあ自伝的要素が強いのでそれだけでも面白いのは面白いです。
一番印象に残ったのは以下の文章でした。
それはもはや数え切れない時間だけれど、そうやって毎回その日の勉強を終えるたびに、疲労困憊しながらも、自分の限界の外側にあるチェスの可能性について、ほんの少しだけ、ほんの微かではあるものの、理解できたのではないかという希望で心が満たされるから不思議だ。
『教養としての認知科学』を読んだ
『教養としての認知科学』を読んだ。
今晩の鳥貴族ですぐに役立つオモシロ知識満載だった。
さらに衝撃的な話もある。ヨハンソンたちが行った実験では、参加者に二人の女性の顔写真を見せ、どちらが好きかを選んでもらい、その写真を直後に再度提示してその理由を尋ねる。ただ、時々手品を用いて、選んでいないもう一方の女性の写真を見せて、それを選んだ(?)理由を尋ねる。ところが、この入れ替えの手品に気づく人はたったの一三パーセントでしかないという。
もちろん単なるオモシロ知識が羅列されているわけではなく、認知科学の基礎となるトピックが分かりやすくまとめられている。鳥貴族では役に立たないかもしれないが、とにかくフンフンへーとうならされる事例がたくさんでてくるのだ。例えば「4枚カード問題」というのが紹介されていて、人間の推論の様式が、提示された問題の文脈に応じて変化することが、単純な実験で炙り出される様が示されている。
ちょっと詳しく感想書く時間ないですけどこれはいい本でした。面白いです。鳥貴族行ってきます。
『青い鳥』(重松清)を読んだ
重松清さんの短編集『青い鳥』を読んだ。
この短編集の主人公「村内先生」は作中で生徒に次のように語りかける。
なあ、篠沢さん、うまくしゃべれないっていうのは。つらいんだ。自分の思いが。伝えられないっていうのは、ひとりぼっちになるって。ことなんだ。言葉が。つっかえなくても。自分の思いが。伝えられなくて、わかってもらえなくて。誰とも。つながっていないと思う。子は、ひとりぼっちなんだよ、やっぱり。
でもなあ、ひとりぼっちが二人いれば、それはもう、ひとりぼっちじゃないんじゃないか、って先生は思うんだよなあ。
先生は、ひとりぼっちの。子の。そばにいる、もう一人の、ひとりぼっちになりたいんだ。だから、先生は、先生をやっているんだ。
「文庫版のためのあとがき」で著者の重松清さんは次のように語っている。
しゃべろうとすると言葉がつっかえてしまうひとを主人公に据えたお話は、『きよしこ』につづいて、これが二作目である。なぜ繰り返し書くのかと問われれば、僕も吃音だから、としか答えられない。