アントニオ猪木の仕事術
テッタリアのメノンは哲人ソクラテスに問うた。
徳というものは教えることができるか? それとも教えることはできず、実践によって身につくものか? または、ただ素質によるものなのか? あるいはまた、何か他の仕方で備わるのか?
では、あなたは何を問われているのか? 慌ただしい朝食時にゆで卵を喉につまらせたとき、通勤電車に駆け込みゆで卵を喉につまらせたとき、、世界中の誰ひとりとして幸せにならない仕事が突然降ってきてゆで卵を喉につまらせたとき、仕事が一段落してコーヒーで一服しながらゆで卵を喉につまらせたとき、夕食の献立を考えながら自転車を飛ばし結局またカレーにすることを決めてゆで卵を喉につまらせたとき、あなたはいったい何を問われているのか?
あなたは事実問われている。問われているのだ。あなたは次のように問われている。
『猪木である』ということは教えることができるか? それとも教えることはできず、実践によって身につくものか? または、ただ素質によるものなのか? あるいはなにか他の仕方で備わるのか?
日々そのような問いを突きつけられながら懸命に生きるあなたにおすすめの一冊がある。BRUTUS特別編集『合本・真似のできない仕事術』だ。
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この本は各界で活躍する27人の仕事術が紹介してある。角界の27人じゃない。そういうのが読みたいひとは『大相撲』とか読まなきゃ。それはともかく、重要なことはこの本で紹介されている27人の中のひとりにアントニオ猪木が含まれているということだ。BRUTUS らしいシャレオツなセレクトだ。
そこで紹介されている猪木さんの「仕事術三箇条」を引用しよう。曰く
1. 大事なことほど直感で決める。
2. カネのためじゃなく、ロマンのために。
3. 失敗しても、死ぬわけじゃない。
ゾクゾクする。この異様な不安感はなんなのか?
しかし、アントニオ猪木がアントニオ猪木であるとはどういうことなのか、という点を突き詰めると、上記三箇条は極めて示唆に富んでいる。アントニオ猪木がアントニオ猪木であるとはどういうことなのか? それは、端的に述べると、「失敗を義務づけられている」ということだ。これには説明を要さない。説明したくない。説明できない。しかし事実だ。
この本の中で猪木さんの行動力を称賛するくだりがあって、その例のひとつとしてキューバのカストロとの対談が挙げられている。猪木さんはカストロと対談した最初の日本の国会議員であるらしい。当時の様子を猪木さん自身が語っている。
革命という錦の御旗はさておいて、ゲリラ次代の話を聞いたり、メキシコに亡命していたときの話をしたり。(中略)まあ、酒を酌み交わして、懐に入る。それしか俺にはできないからね。
ゾクゾクする。カストロと対談して、革命の錦の御旗を真っ先にさておいてしまっている。常人では不可能だ。
この他にも"仕事人"の皆さんに20の質問というコーナーがあって、そこでの回答も極めて興味深い。例えば「Q10:思いついたアイデアはどこに記録するか?」という質問に対しては次のような回答が待っていた:
アイデアはほとんど頭の中。ダジャレだけはメモにとっておく。
ゾクゾクする。ダジャレをメモするアントニオ猪木。
また、「Q14 仕事でしてしまった最大の失敗は何?」という質問に対する回答もふるっている:
すべてが成功のもと。失敗なんてない。
ゾクゾクする。これを読んだ坂口征二は何を思うのか。
とにかく、強引にまとめると、この本は「これさえ読めばあなたもアントニオ猪木になれる」という決定版と言えるだろう。本のタイトルを『真似のできない仕事術』としてきっちり逃げの姿勢を取っている点も高く評価できる。とにかく一家に一冊はほしい。
ちなみに、この本で紹介されているお歴々は以下の27人(18名+9社):
松浦弥太郎 片山正通 森本千絵 伊藤直樹 浅野いにお
遠山正道 芋束 中村ヒロキ 多田琢 安藤忠雄建築研究所
東京糸井重里事務所 フラワー・ロボティクス nendo
SAMURAI スタジオジブリ シェ・パニース レベルファイブ
株式会社ジュン アントニオ猪木 茂木健一郎 幅允孝
針谷建二郎 松本圭介 福富太郎 佐野研二郎 阿部千登勢
星野佳路
個人的には
とにかく色んな方の仕事ぶりとかが紹介されているわけですが、これを自分の仕事に生かすとかそういうセコいことを考えるのではなく、もっぱら娯楽として購入するのが一番よいのではないかと思います。これは悪口ではないです。読み物としては買ってみて損はなかったと思いました。それではさようなら。