(追記あり)「近いうちに電気に税金をかけられるようになるでしょうね!」


追記(2015/3/28):この記事で『歴史でわかる科学入門』の記述を引用するかたちで紹介したファラデーの逸話ですが、実話ではなく創作であるということをid:machida77さんに教えていただきました。すっかり真に受けてしまい恥ずかしい限りです。machida77さん、ご指摘ありがとうございました。詳しくはmachida77さんのブログに解説があります↓d.hatena.ne.jp
(追記ここまで)


歴史でわかる科学入門 (ヒストリカル・スタディーズ08)
ウィリアム・F・バイナム
太田出版
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『歴史でわかる科学入門』を読んだ。本書の帯には「やさしい言葉で書かれた科学の物語」とある。「科学」が「科学」と呼ばれるはるか以前の古代から現代までの科学の流れが全40章、362ページでまとめられている。著者はユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン名誉教授のウィリアム・F・バイナム先生。ところでユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンというのはユニバーシティなのかカレッジなのかそれが問題だ。専攻は医学史とある。


私のポンコツ人生でも一冊の本にまとめようとすればそれなりに大変だと思うのだが、なんと言ってもここでの相手は科学全体である。あれも書きたいこれも書きたい、よく考えたらあれも書くべきだしこれも書くべき、そう言えばあの人もいるしこの人もいるとかどんどん膨らんできそうなものだ。また自意識過剰なサイエンティストからは「俺のあの発見を書かないのはなぜだ」とか「STAPはあります」とか「あの論文本当は私がゴーストライターです」などなどのクレームが寄せられるのがあらかじめ予想されて心が折れてしまいそうなものだが、そこを乗り越えて出版にまでこぎつけたという点だけで充分に評価に値するのではないだろうか。そんな評価いらんか。


それはそれとして、この本が凄いのは、科学の「中身」だけでなく、その中身を明らかにした科学者についても手際よく触れられているからである。例えば第22章「力、場、磁気」は、ファラデーの電磁誘導の法則で知られるマイケル・ファラデーを中心に描かれている。この章では電磁気を発見したエールステッドからバトンを受けたファラデーが、それをマクスウェルに引き継ぐという大きな流れが描かれるのだが、その中で一般家庭に生まれたファラデーが、王立研究所のハンフリー・デイヴィーの助手となり、ついには科学史にその名前を永遠に刻まれる存在にまでなることにもバランスよく触れられている。そして発電機の発明者でもあるファラデーが政治家に電気の実用的な価値は何かと訊かれたときのファラデーの答えがこの記事の標題である。なかなかおもろいやないの。ちなみに、この章で最も印象に残ったシャレオツな表現は「ファラデーは数学を利用しなかった最後の偉大な物理学者だった」でした。


さて、夢中で一気に読み進めたこの本でしたが、読後に浮かんだ疑問をひとつだけ書き散らして終わりたいと思います。本書の第30章「原子の中へ」では、原子の構造に迫った19世紀終盤から20世紀にかけて活躍した物理学者の活躍が描かれている。その中にニュージーランド出身のアーネスト・ラザフォードの実験について説明されているのだが、その部分を少し引用してみる。

ラザフォードと同僚たちはきわめて薄い金属箔にアルファ線をぶつける実験をおこない、その結果を測定した。たいていの場合、アルファ粒子は金属箔を突き抜けたが、たまに跳ね返ってくることがあった。何が起きたのかと考えたときの、ラザフォードの驚きを想像してみてほしい。たとえて言うなら、一枚の紙に向かって重い大砲の弾を発射したつもりが、弾が自分のほうに跳ね返ってきたのである。アルファ粒子が、金属箔を構成する原子がきわめて高い密度になっている部分にぶち当たったためだった。この高密度の部分が原子の「核」だったのである。


この大砲の弾の比喩、読んだ直後はなるほどと感心してしまったのだが、よくよく考えると、なんかおかしいと思い始めた。なんでだろうか。この比喩は、実験の中身を全然説明していないのだ。そうではなくて、この実験でラザフォードがどれくらいびっくりしたのかを説明しているのだ。いいのかそれで。この本の役割は、直感的には理解が難しい実験の中身を、比喩なりなんなりで噛み砕いて解説することだろ。びっくりの度合いとか噛み砕かんでええわ!というイチャモンをつけてこの記事を終わります。とにかくおすすめの一冊です。以下に目次を載せておきます。

第1章 はじまり
第2章 針と数
第3章 原子と空虚
第4章 医学の父―ヒポクラテス
第5章 "知者たちのマエストロ"―アリストテレス
第6章 皇帝の侍医―ガレノス
第7章 イスラムの科学
第8章 暗黒を抜け出て
第9章 賢者の石を探し求めて
第10章 人体の解明
第11章 宇宙の中心はどこ?
第12章 斜塔と望遠鏡―ガリレオ
第13章 めぐりめぐる―ハーヴィー
第14章 知識は力なり―ベーコンとデカルト
第15章 "新しい化学"
第16章 上がった物はかならず……―ニュートン
第17章 ひらめきの火花
第18章 時計じかけの宇宙
第19章 世界に秩序を
第20章 空気と気体
第21章 物質をつくる小さな粒子
第22章 力、場、磁気
第23章 恐竜の発掘
第24章 地球の歴史
第25章 "地上最大のショウ"
第26章 生命の小さな箱
第27章 咳、くしゃみ、病気
第28章 エンジンとエネルギー
第29章 元素を表に
第30章 原子のなかへ
第31章 放射能
第32章 世界を変えた科学者―アインシュタイン
第33章 動く大陸
第34章 遺伝するものとは?
第35章 ヒトはどこから来たのか?
第36章 特効薬
第37章 構成単位
第38章 "生命の書"を解読する―ヒトゲノム計画
第39章 ビッグバン
第40章 デジタル時代の科学