セックス、睡眠、飲み食い、夢の秘密を盛り込んだ贅沢な科学本

『からだの一日 あなたの24時間を医学・科学で輪切りにする』を読んだ。



最近、NEATという言葉をよく耳にしませんか。NEETじゃなくてNEAT。NEATは Non-Exercise-Activity-thermogenesis の略で、日本語だと非運動性活動熱発生とか言ったりするようです。要するにジョギングやウォーキングなどのエクセサイズ以外の活動によるエネルギー消費量のことです。「そわそわした身ぶり、姿勢を変える仕草、立っていること、歩くこと、指やつま先で机や床を叩く」などが含まれるわけです。


それで、最近なんでNEAT、NEATとやかましいかというと、一日の消費エネルギーの総量に占めるNEATの寄与がうわっと驚くくらい多いぞということが分かってきたからなんですね。例えば、タニタのサイト内で紹介されていた日本人を対象にした研究(アスリートじゃない一般の人が対象)ではその割合が 25-30%となっていました。もちろん、どんな人が研究対象になったかとか色々な留保がつくわけですが、とにかくNEATが馬鹿にならない量になるんじゃないかというのが最近の考え方のようです。


ダイエットをするときには、普通はジョギングやウォーキングなどの「エクセサイズ量」ばかりに目がいくわけですけれども、先に触れたようにこのNEATも馬鹿にならんぞということで万歩計ではなくてNEATにも対応した活動量計というのが注目されているわけですね。





ちなみに、上に貼った活動量計だと、NEATも測定して数値化する。そして、ウェルネスリンクというオムロンが提供するシステムと連動させれば、「活動で消費したカロリーが記録でき、あとで内容を分析することも可能」だそうです。凄いですね。



さて脱線しましたが、話を『からだの一日 あなたの24時間を医学・科学で輪切りにする』に戻します。実は本書でもこのNEATについて言及しています。第5章「ランチのあと」によると、過食の際に生じるNEATには個人差があるという。これはようは食べ過ぎちゃった後にそわそわ動き回ること火の如しの人もいれば、じーっとしちゃって動かざること山の如しな人もいるということなんですが、驚くなかれ驚くなかれ、この過食後の「落ち着きのなさ」についてある研究者は次のように考えているというのだ。

食べ過ぎたときに生ずるNEATは人によって異なる。たくさん食べてもそわそわと動きまわって、ほとんど安定した体重を維持した人もいれば、あまり動きまわることなく、最大で四キログラムまで太った人もいた。研究者たちによれば、この一人ひとりが生まれながらにもつ落ち着きのなさは、おそらく遺伝的に決められた脳内化学物質のレベルによって制御されており、これがその人のカロリー消費の一五〜五〇パーセントを占めるかもしれないという。


素直でない私がこれを素直に読むと、過食に反応して出てくる脳内化学物質があって、その出方は人によって違っていて、しかもそれは遺伝的な違いを反映している可能性があるということなんでしょうか。生まれつきNEATに見放された人がいるということか。にわかには信じがたい説であるが、これを読んでから食後の人の動きを観察するのが楽しくて仕方がない。実はNEATについては、第12章「眠り」でも言及されている。第12章では睡眠不足の人ほど太りやすいという興味深い研究結果が紹介されているのだが、これにNEATが関係しているというのだ。興味のある方は是非本書に直接あたっていただきたい。




もちろん本書はNEATのことだけを扱っているわけではない。日本語版のタイトルは『からだの一日』というお行儀の良いものだが、原題は『SEX SLEEP EAT DRINK DREAM』となっており、原著者は次のように解説している。

本書では、私自身の関心事と、読者の方々にも興味深いであろうと思われる話題に絞った。キスや抱擁からオーガニズム、マルチタスキングから記憶、トレーニングからストレス、午後の眠りから夜寝ているあいだに見る夢までを収めてある。


例えば、「あくび」について。私は酸素不足に反応性に出るという説を信じていたが、どうもこれは違うらしいという説が紹介されている。そして「あくび=社会的な信号説」が紹介されていて、あくびは伝染するかという問題を探求した実験も紹介されていて面白い。


その他ざっと挙げていきますが、本書を読むだけで次のようなことが分かりますぜ。

  • 一日のうちで心臓発作が最も起きやすい時間帯は? またそれはなぜか?
  • 一日のうちで歯の痛みを最も感じにくい時間帯は?(何時に歯医者を予約すべきか分かる!)
  • 香りが昔の記憶を呼び起こすのはなぜか?
  • 早起きすると金持ちになれるか?
  • ウディ・アレン遺伝子」というあだ名の遺伝子があるというが、これはどういう遺伝子か?
  • 新しい恋を見つけた人と長期の恋愛関係にある人の脳活動の違いとは?
  • スポーツの新記録が出やすい時間帯はいつか?(ただし、すべての運動がこの時間帯に適しているというわけではないらしく、ここがまた面白い)
  • アーミッシュの人たちはカロリーの高い食品もたくさん食べるが肥満率が著しく低いという(アメリカ国内での比較だけど)。それはなぜか?
  • ヘロイン中毒患者の性欲が低いのはなぜか?
  • 黄体化ホルモンの血中レベルは排卵が近づくと上昇するが、女性に男性のある部分の匂いを嗅がせると次のホルモンピークがやってくるのが早まったという。どこの匂いだろうか?
  • 精子の質は一日のうちでどの時間帯でピークを迎えるか? またテストステロンレベルはどうだろう? (ちなみにどちらも就寝時間帯とはずれている!)
  • ある研究者によると力いっぱい鼻をかむのは鼻をかまないよりも悪いという。それはなぜか?
  • 医学の分野にクロノセラピー(時間療法)というものがあるらしいが、これはいったいどういう療法か?
  • 睡眠時に悪夢を見る頻度には男女差があると主張する研究者がいる。どちらが悪夢を見やすいか?
  • 鬱血性心不全胃潰瘍、乳幼児の突然死症候群、骨破壊、片頭痛、喘息発作がピークを見せる時間帯とは?


もちろん、「定説」とまでは至ってない説も含まれるが、紹介されている研究のほとんどに出典がついているので気になる人は内容を確認することも可能だ。人間の不思議と自分の身体の不思議を改めて思い知ることができる一冊だと思う。