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住宅の南向き信仰の起源

読書 デザイン

日本では住宅に求める条件として「南向き」が重要視され、それは住宅価格にも反映されています。では、この日本人の「南面信仰」はいつぐらいから始まったのでしょうか。


前回のエントリーでも紹介した、『「間取り」で楽しむ住宅読本』にその話題が出ていました。


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それによると、江戸時代後期までは、南向きにこだわる傾向は見られなかったという。それでは、南向き北向きなどの方位が重視されずに何が重視されていたのか。それは、通りに面した側であるかどうかが重視されていたという。そして、江戸時代の武士の住宅では、接客の場を中心に間取りが構成されていたため、通りに面した側、すなわち屋敷の「表側」に接客の場である座敷が配置されていた。


ところが、興味深いことに、江戸時代後期に武士の住まいの間取りの構成原理に変化が生じるという。これは、浅野伸子さんという方の研究に基づいているようだ*1。『「間取り」で楽しむ住宅読本』から引用すると

 浅野の指摘によれば、江戸時代後期以降、中・下級武士の住まいの間取りでは、その住まいがどのような形状であっても、接客の場は必ず南側に配されるという原理が具現していたのである。そして、こうした南面を重視した間取りの伝統が、明治以降の近代化の中でもひとつの原理として脈々と息づいていたのである。


残念ながら、どういう理由であるかまでは説明していなかったが、明治以降の庶民が、こうした江戸後期の武士の住宅をモデルにしたために、日本では「南向き」重視の傾向が今に至るまで続いているということらしい。ただし、江戸期から明治期にかけては、「接客の場・主人の場」が重視されたために、「ハレ」の場である南側に座敷などが配置されたが、時代が進むに従って「接客・主人重視」から「生活・家族重視」という転換が起きたために、現代では南側に家族の場である居間などが配置されるようになっている。それでも重要な部屋を南側に配置するという原理は貫かれている。


さて、これを読んで「ああ、そういうことなのか」と自分では納得していたのですが、続いて読んだ『「間取り」の世界地図 暮らしの知恵としきたり』では微妙に見解が違っていた。


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この本でも、以前は南向き重視の傾向は見られず、おおむね通り側を重視する傾向があったという点については、ほぼ同じ見解が示してあった。これは武士の住まいだけでなく、町家などでも見られる傾向であるという。


これが南向き重視、すなわち日照重視に傾くのは、健康の維持に日照が重要であるという医学的知識が伝わった明治中期だと指摘している。この時期に全国の学校が南向きの校舎をつくるようになり、これに「過剰反応」し、南向き一辺倒になってしまったというのだ。この本で先ほどの「江戸後期説」が明確に否定されているわけではないのですが、それに対する言及もなかったので、こうした微妙な見解の相違がどうして生じたのかについては残念ながらよく分かりませんでした。


ついでに言うと、『「間取り」の世界地図 暮らしの知恵としきたり』によると、こうした日本人の南向き信仰というのは世界的にも珍しいらしい。日照時間という点では日本よりも南向きを重視してもおかしくないと思われる欧米では、日本のように南向きを重視するということはないそうです。ニューヨークなどでは、むしろ北向きのほうを好む傾向もあるそうでその理由が挙げられていました。それによると、


 1.南向きだと家具が傷みやすい
 2.北向きのほうが眺望がいい(逆光にならないから)
 3.日照への欲求が強くない(湿度が高くないからか?)


こうして見てみると、日本人の南向き信仰は少し行き過ぎているようです。南向き信仰を少し緩めて、北向き住宅への「蔑視」をやめれば、街づくりの選択肢ももっと広がるのかもしれません。


ここで紹介したように南向き信仰の起源についてはやや見解を異にしていたものの、両書とも、美しい街並をいかにつくるかという観点からは、東西南北の方位を重視するよりも、住宅の通り側を重視することが重要だということを強調していたのは印象的でした。例えば『「間取り」で楽しむ住宅読本』では、具体的な提案がしてありました。

どうか、総工費の十パーセント、それが無理なら五パーセントでもいいですから、外構工事費に回してください。とりあえず、玄関まわりの外構工事に集中して費やしてください。そうした住まいが増えるだけで、町並みは美しくなります。
 通る人々が楽しく歩ける町並みは、住み手にとっても誇らしいものです。間取りを通して行う住まいづくりは、個人のものであっても、同時に公共のものであるという側面をもっていることを意識していただければ、望外の幸いです。


住宅の設計だけでなく、住宅を通して街づくりを考えるヒントにもなる2冊だと思いました。

*1:ただし引用されている論文は「私家版」とある。