こどもと一緒に楽しむ数学図鑑『親子で学ぶ数学図鑑 基礎からわかるビジュアルガイド』

ほとんどサルだった時代から人類が互いにいがみあわなかったことはほんのひと時でさえもなかったとは言うものの、こと図鑑が楽しいという一点に関しては北軍も南軍も愛国主義者も無政府主義者もぼったくりバーの経営者も明朗会計の寿司屋の大将もベジタリアンもコメディアンも赤毛のアンもつぶあんもこしあんもわたしもあなたも意見を異にすることはない。創元社の『親子で学ぶ数学図鑑 基礎からわかるビジュアルガイド』もまた楽しい一冊だった。



この本の原題は『Help your kids with maths』で、算数を学ぶ子供を親が手助けするための参考書というのがコンセプトらしい。


中身を眺めてみると算数の基本的な事項がカラフルに楽しくまとめられている。訳者の渡辺滋人さん曰く「わかりやすさ、親しみやすさ、使いやすさを前面に出した、万人向けのビジュアル系ハンドバック」。ただし「ビジュアル系」とは言ってもSHAZNALUNA SEAの共著というわけではないので注意を要する。


著者はイギリスのキャロル・ヴォーダマンさん。このキャロルさん、イギリスではテレビなどで活躍されていて大変有名な女性のようです。巻末の著者プロフィールには以下のように紹介されています:

英国の科学番組「トゥモローズ・ワールド」の司会者。キャメロン首相の数学教育に関するアドヴァイザー。オンライン数学スクール www.themathsfactor.com を開設し、子供や親たちに、算数の教育普及活動をしている。

ちょっと調べた範囲では、「トゥモローズ・ワールド」というのは、BBCで1960年代にスタートして2003年まで続いていたという大変長寿の科学番組で、彼女は1990年代半ばにこの番組の案内役を務めていたようです。
‪Tomorrow's World‬-Wikipedia
http://en.wikipedia.org/wiki/Tomorrow's_World


ただ、Wikipedia のキャロル・ヴォーダマンさんの項を見てみると「トゥモローズ・ワールド」についての記述はなく、テレビでのキャリアとしては「カウントダウン(Countdown)」という番組の司会についての解説が詳しく出ています。ヤル気のない大学生のようにソースがWikipediaばかりで恐縮ですが、ヤル気のない大学生に愛されている Wikipedia によると「カウントダウン」というのは「game show involving word and number puzzles」と説明されていますので日本で言うとアタック25のような番組でしょうか。分かりませんがアタック・チャーンス。


とにかく彼女はこの番組で「数字に強い」女性として有名になったようです。日本で言うと麻木久仁子さんのようなイメージでしょうか。大桃さんも好きな私としては困りますが、そもそも麻木久仁子さんのようなイメージでいいのかどうかが分からない段階で困ってもいいものやらよく分かりませんがとりあえずアタック・チャーンスといった風情であります。そして、こういったイメージを活かして先に触れたオンライン数学スクールを開設するなど数学教育普及に携わっており、この図鑑の出版もそうした活動の一環ということになるのでしょうか。分かりませんがアタック・チャーンス。


ただし、この図鑑全部を彼女ひとりが執筆したというわけではないようです。表紙にはキャロル・ヴォーダマンの名前だけが挙げられているのでちょっと分かりにくいのですが、本の最後のところには彼女以外にバリー・ルイス、アンドリュー・ジェフリー、マーカス・ウィークスというお三方の名前も挙がっていて、それぞれ「監修、数・幾何・三角比・代数」、「確率」、「統計」を担当と書かれていて、それじゃあキャロルさんはどの部分を執筆したのかというと、それはどこにも書かれていなくてよく分かりませんw。おそらく色々と大人の事情があったのではないかと推察されます。分かりませんがアタック・チャーンス。


さて、なにやら意味もなくきな臭い事情を強調することでネガティブなイメージを植えつけてしまったかもしれませんが、どういう事情があるにせよこの図鑑の素晴らしさは本物だと言わずにおれようか、いやおれまい。そもそも図形がでてくる幾何などの分野において視覚的な解説が理解の助けになるというのは誰にでも想像しやすいと思うのですが、この図鑑を眺めていて感心したのは、代数や確率などの分野でも、子供に説明するのに便利そうなイラストが満載なところです。うまく言えませんが、直感的に理解するための具体例が上手に視覚的に表現されていると言えば良いのかもしれません。本書の一部は以下のサイトで中身を確認するチャンスに恵まれていますので、これはまさにアタック・チャーンスと言わざるを得ません。

http://ja.scribd.com/doc/81894196/Preview-Sugakuzukan


本書の序文で著者のひとりでもある数学協会評議会議長のバリー・ルイスさん(英国政府の「数学イヤー2000」の議長もされていたそうです)は次のように述べています

きっと多くの人は、数字をあつかえる能力があればそれで十分と考えるのでしょう。ところがそうではない、個人としても集団としても、それでは困るのです。数というのは、本当は、数学という構造物の内部の隙間で輝いている炎のようなものなのです。それなくしては、私たちは暗闇に閉ざされる。それがあれば、普段は隠れている宝物の煌めきを目にすることもできるのです。

この本はこういった問題に取り組み、解決するための手がかりになるでしょう。数学は誰にでもできます。


自分自身が算数が苦手で、お子さんも算数でつまづきかけているという方々がコアなターゲットになると思いますが、子供に限らず大人が眺めていても充分楽しいですので、一度手にとって眺めてみてはいかがでしょうか。






ちなみに、先に触れた「トゥモローズ・ワールド」はBBCのアーカイブで一部が公開されているようです。
http://www.bbc.co.uk/archive/tomorrowsworld/8001.shtml?all=2&id=8001