『ヒトはなぜ病気になるのか』読んだ

『ヒトはなぜ病気になるのか』を正月に読んだのでご紹介。


ヒトはなぜ病気になるのか (ウェッジ選書)ヒトはなぜ病気になるのか (ウェッジ選書)
長谷川 眞理子

ウェッジ
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この『ヒトはなぜ病気になるのか』はウェッジ選書の一冊として出版されているのですが、このウェッジ選書というのはそもそもなんだろうか? そこから気になっちゃったのでちょっと調べてみると、JR東海グループの出版社だそうで。そうかあのWEDGEか! ということでひとつスッキリしました。


この本は「進化医学、ダーウィン医学と呼ばれる新しい分野」について平易に書かれた解説書という感じの本です。進化医学というのは、ソチ・オリンピックや都知事選ほどは話題になっていませんが、大阪都構想くらいの盛り上がりを見せている分野です。例えが分かりにくいですが、他意はございません。


進化医学がどういうものかというと「ヒトという動物の進化の歴史を見ながら、ヒトと病気というやっかいなものとの関係を探っていく」学問だそうです。そう言われてもちょっとまだ実態がつかみづらいと思いますが、例えば、本書で解説されている疾患の中では椎間板ヘルニアが分かりやすいかもしれません。都知事選に出馬するくらいの方ならご存知かもしれませんが、人類は直立二足歩行をするイカした哺乳類です。もうすぐソチ・オリンピックですが真央ちゃんがああしてぴょんこらぴょんこらジャンプできるのも直立二足歩行という移動様式を人類が採用したお陰でしょう。トリプルアクセルに挑戦しようとして佐藤コーチに止められるシロクマとかいないでしょ。脱線してみました。


さて、四足歩行する場合と直立二足歩行する場合を比較すると、背骨にかかる重力の作用がまったくことなります。まったく異なるので180度違うと書きそうになりましたが、実際には90度違っていました。ややこしいですね。直立二足歩行では、「背骨が地面に対して垂直に伸び」ています。背骨(脊柱)というのは、椎骨と呼ばれる小さな骨が連なってできているのは、東京オリンピックを目指す少年少女達もよく知っていると思います。知らなかったという人は「椎骨最高!」でググってみてください。そして、その椎骨と椎骨の間に挟まれて大変な思いをしながら我々を支えてくれているのが椎間板です。事情があって厳密な話はできないのですが、大まかに言って、この椎間板に過度な負担がかかって椎間板がプシャーってなってはみ出ちゃって、周りにある神経を圧迫してイテテとなるのが椎間板ヘルニアの病態です。


で、しつこいですが、この過度な負担がかかるというのは、人類の背骨が地面に対して垂直に伸びてて、重力の作用が椎間板がプシャーってなりやすいようになっていることが関係しているというわけです。確かにヘルニアのライオンとかあまり聞きません。大西ライオンはひょっとするとヘルニアかもしれませんが、そてはまた別の話だと思います。


この椎間板ヘルニアという疾患を進化生物学的視点から眺めてみると、「進化がつねになんらかの妥協の産物であることからくる不具合」ということがわかります。つまり、進化というものは、いったんすべてをリセットしてゼロからすべてを作りかえることで生じるわけではなくて、「それ以前に存在したものをもとに、こっちを少し、あっちを少しと変えて出来上が」るという連続性を大原則としているわけです。直立二足歩行というものに適した構造をゼロから組み立てることができれば人類もヘルニアレスな生物になっていたのかもしれませんが、実際には四足歩行をするご先祖様の基本的形態を引き継いだまま直立二足歩行に移行せざるをえなかったわけでして、そのあたりの事情は察していただければと思います。


さて、本書の構成です。

  • 第1章 病気はなぜあるか?

イントロ的な部分です。進化とは何かというとこから説きおこすのでまあ大変。本書全体で約200ページありますが、第1章だけで約40ページが費やされています。ちょっと詳しい方にはまどろっこしいかもしれませんが、丁寧に解説されていたので私には分かりやすかったです。

  • 第2章 直立二足歩行と進化の舞台

人類の進化の歴史と病気との関係を、直立二足歩行の採用という部分に特に注目して解説しています。鬱蒼とした森林での生活を捨てて日差しの強いサバンナに進出したことでエクリン腺が!エクリン腺が!というような話とかも出てきますので、サバンナの八木さんにも是非読んでみてほしいです。椎間板ヘルニアの話もここで出ていました。ブラジルのみなさーん、ヘルニアですか? みたいなイメージでしょうか。分かりません。

農耕開始に伴う栄養摂取パターンの変化と病気との関係が扱われています。

  • 第4章 感染症との絶えざる闘い

感染症の話です。段々説明が適当になっている気がするかもしれませんが、気にしないで下さい。

  • 第5章 妊娠、出産、成長、老化

個人的にはここが一番面白かったです。この章で分娩のシグナルの話が出てきます。つまり、どういう条件が整うと子宮の外に出ることになるのかという問題です。詳しくは本書に直接当たっていただきたいのですが、どうもこれには胎児側の栄養要求量と母親側の栄養供給量のバランスが関係していそうだというのです。


この第5章ではこれ以外にも「出産に適した環境」という話題が出ていて、グアテマラのドゥーラと呼ばれる習慣が紹介されていました。ドゥーラというのは、これから出産する産婦に付き添う人のことなんだそうですが、助産師のような出産に関わる専門職ではありません。それどころか産婦と親しい人である必要もないのだそうです。「ただ、産婦といっしょにいて話をし、そばにいて激励し、安心させる役目をおった人間」なのだそうです。このドゥーラがいる場合といない場合での、分娩や母子関係への影響を調べた研究結果が紹介されていたのですが、これにはぶったまげました。興味ある方はどうぞ。