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君はまさか非実在ハナミズキを知らずに死ぬのか


最近その存在を知った『ほんとの植物観察』という本がとても面白かったので、感想などをまとめておきたいと思います。勝手にどうぞ。了解了解。



さて、ではこの本はどういう本か? 「迷わず読めよ 読めばわかるさ」で済ませるのが手っ取り早いのですが、先ずはこの本のカバーのそでの部分に掲載されている紹介文を引用してみます

アサガオやアジサイ、サクラ、ツバキに、フジ、タンポポなどなど
・・・・・・。
この本で取り上げたのは、だれでも一度は目にしたことがある身近な植物ばかりです。
でも、アサガオを、アジサイを、あなたは本当に知っていますか?
「うそっ!」と「ほんと?」を見分けながら、植物の見方の本質を教えます。


この紹介文にもあるようにこの本で取り上げられているのは身近な植物ばかりなのですが、『ほんとの植物観察』と謳うだけあって目の付け所がシャープです。構成としては見開き二ページでひとつの話題が紹介されています。最初のページに、数枚のスケッチが掲載されているのが特徴で、例えば4枚のスケッチの中で実際に観察することのできるものはどれかというのがクイズ形式で提示されていて、二ページ目の「観察のポイント」というところで答えが解説されます。


例えば、42頁と43頁では「ハナミズキ」が取り上げられています。これはご存じの方も多いかもしれませんが、ハナミズキの「花びら」と思われているのは実は「苞葉」で、本当の花はこの苞葉に包まれてひっそりと咲いています。もちろん、この苞葉と花との関係も本書で丁寧に説明されているのですが、「観察のポイント」はさらに目の付け所がシャープになっています。42頁にハナミズキの4枚のスケッチがあって、それについての解説が43頁にあるのですが、その部分を引用してみます:

図3が正しいスケッチです。冬芽は花と葉の混合芽で、対生する二本の枝の中央に四枚の苞葉を持った頭状花序を一個つけます。枝のもとには二枚の鱗片葉をつけ、その枝の先には、開花時に二枚の葉を対生につけますが、鱗片葉は正常に伸びることはありません。
 図1は苞葉の先端が丸く、図2は苞葉が五枚、図4は花軸に葉をつけているので、いずれも実在しません。


解説だけ読むとちょっと分かりにくいかと思いますが、スケッチを参照しながら「実在ハナミズキ」と「非実在ハナミズキ」とを分かつ境界がクリアになっていくのがなかなかの快感であります。


また、本書はこうした「観察のポイント」だけでなく、悪い人ではないのだけれどもどうも会話が途切れがちになってしまう同僚とエレベーターで二人きりになってしまった際に気まずい沈黙を破るのに役立つ豆知識もさり気なくちりばめられています。例えばハナミズキのところでは

樹皮を煎じてイヌの皮膚病の治療に用いるので、英名を「ドッグ・ウッド」といいます。


とありました。「ドッグウッド」をきっかけにしてどのように会話を弾ませればよいのかという疑問に対する解を我々人類が未だに手にすることができていないという事実は確かに大変残念ではありますが、そのことが本書の価値を損なうことにはならないでしょう。





今まで同じに見えていたものの中に違いを見出す、あるいは、今まで違うと思っていたものの間に共通点を見出すという行為こそが「ほんとの観察」だとすれば、我々を取り巻く世界は「ほんとの観察」によってその都度新たに構築されなおされているということになります。それが観察という行為が潜在的に持つ悪魔的な側面であるとも言えるわけですが、不景気な世の中で政府にも革命家にも世界を変える力は残っておりませんので、植物に限らずありとあらゆるものをもう一度じっくり観察し直すことであなたを取り巻く世界を一変させるというのも一興かもしれません。とか余計なこと言ってないでとりあえず『ほんとの植物観察』を片手に身近な植物を観察してみたいと思っています。