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「ああ、これがあの木なんだ!」モノから読み解く文学事典


『「もの」から読み解く世界児童文学事典』を読んだ。

「もの」から読み解く世界児童文学事典「もの」から読み解く世界児童文学事典
川端 有子 こだまともこ 水間千恵 本間裕子 遠藤純編著

原書房
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どういう本か。著者のひとりである川端有子さんは「はじめに」で次のように述べている。ちょっと長いけど引用します。

幼いときに何度も続み返した物語には、 ときに見も知らない 「もの」 があふれ ていた。 物語の主人公が口にする食べもの、 袖を通す衣服、 日常使う道具、乗りもの、登場人物をとりまく草花、動物・・・・・・などなど。 その描写を読みながら、 知らないものについては空想をめぐらせ、 憧れをこめて頭の中に思い描いてみた。 よく見知ったものが出てきたときには、 親しみの気持ちが、登場人物と 「わたし」を強く結びつけてくれた。
(中略)『赤毛のアン』 でも、物語のなかで 「ダイアモンド」という素晴らしい宝石のことを知った孤児のアンが、 紫色の光り輝く石を空想で思い描き、 夢見ていたとい うくだりがある。 ほんとうのダイアモンドを見たとき、 彼女はがっかりした、という。 美しいには美しいけれど、 想像していたものとはまったくちがったからだ。 逆に、 わたしがはじめてヨーロッパの地を訪れ、 物語に出てきたとおりの 「も の」 を次々に発見したと きのうれしさは、ひととおりではなかった。
 あらすじを語るなら、 抜け落ちてしまうであろう、けれども物語の核となるイ メージを映し出す 「もの」 の数々を、 わたしたちは強く心にとどめている。 そんな「もの」を語る事典をつく ってみたいね、 という話が初めて出たのは、 いつだっただろうか。


面白そうでしょ。こういうのいいですよ。


ひとりの作家に1作品の原則で物語を選定したという。つまり200の「もの」についての事典になっている。構成としては、200項目が大きく8つに分類されている。「食べもの」「身につけるもの」「道具」「植物」「生きもの」「乗りもの」「家の中のもの」「家の外のもの」の8つだ。


ちょっと項目を挙げてみましょうか。ちょっとだけよ。
「食べもの」

  • 笹飴 江戸時代から愛されている新潟の名産品

 『坊っちゃん

  • ターキッシュデライト エキゾチックなスイーツ

 『ライオンと魔女

 『銀のシギ』ファージョン作品集6


「身につけるもの」

  • ダニエル・ブーン帽 尻尾のついたアライグマの帽子

『ヘンリーくんとビーザス』

  • パフスリーブ 大流行した袖の形

赤毛のアン

  • フォントルロイ・スーツ 一世を風靡した男の子の盛装

『小公子』

『めぐりめぐる月』


「道具」

  • 御幣 神木につけられた信仰の象徴

『テングのいる村』

ガリヴァー旅行記』

  • バターづくりのおけ 子ぶたのとんち

『三びきの子ぶた』

  • 肥後守 ベーゴマ、めんこと並ぶ、男の子の三種の神器

『カモメの家』


「植物」

  • コンカー 英国の男の子をワクワクさせる木の実

『一年中わくわくしてた』ロアルド・ダールコレクション20

  • シュート(黄麻) 少女の運命を決めたインド原産の繊維材料

『家なき娘』

  • パンノキ 南洋の楽園の象徴

海底二万里


「乗りもの」

  • 乳母車 かつては事故もあった危険な(?)乗りもの

『ピーター・パンとウェンディ』

  • グラマン 第二次世界大戦時に登場したアメリカの戦闘機

『神がくしの八月』

  • ベスパ(ヴェスパ) オードリーが乗ったスクーター

『世界のまんなか』


「家の中のもの」

  • ウィッシュボーン 願いのかなう骨

『おねがいはウィッシュボーンで』

  • クリスマスツリー 近代から広まった習慣

光の六つのしるし

  • ゴーディーの婦人ブック 19世紀アメリカの女性雑誌

『大草原の小さな町』


「家の外のもの」

  • アンダーソン・シェルター イギリスの家庭用防空壕

『おやすみなさい トムさん』

  • 海賊旗 海賊のシンボルマーク

『レディ・パイレーツ』

  • 擬宝珠 ネギをかたどった永遠のシンボル

『肥後の石工』



著者のひとりであるこだまともこさんによる「あとがき」では次のようなエピソードが紹介されていた。

ロシアの翻訳家が、『ふくろう模様の皿』などの作品で知られている児童文学作家アラン・ガードナーに会いに、はるばる英国を訪れたときの話である。
 翻訳家が、ガーナーの作品に出てくるある木がロシアにはなく、ぜひとも見てみたいというので、ガーナーは、さっそく自宅の近くにある森に連れていった。すると、翻訳家は木をしげしげとながめ、それから抱きつき、頬ずりをし、匂いをかぎ、「ああ、これがあの木なんだ!」と涙を流さんばかりに喜んだという。


既に読んだことのある作品であれば、こういう「出会い」があるかもしれない。逆に、この本で「もの」を知ってから作品に当たるという楽しみ方もあるだろう。事典であり、ブックリストにもなっている。個人的には、知らない本が結構あって驚いた。わたしは順番に読むことにして既に読み始めている。


2009年に出版されているようだが、あまり話題になっていないような気がする。もっとたくさんの人に知ってほしい本だ。小さいお子さんのいる家庭へのプレゼントなどにもいいような気がしている。ただし、申し訳ないけど値段がちょっと高いと思う。「マニア」向けの本になってしまうのは惜しい。