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馬鹿だからではなくて、アタチタチ馬鹿だよねと言えないのが問題なのか?


『アメリカ人は嘆く われわれはどこまでバカか?』を読んだ。

アメリカ人は嘆く われわれはどこまでバカか?アメリカ人は嘆く われわれはどこまでバカか?
リック・シェンクマン

扶桑社
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本書の原題は『Just How Stupid we are? Facing the Truth about the American Voter』。2008年に出版されたそうだ(日本語版は2009年)。本書の中で明確に述べられているわけではないが、9.11以後のアメリカの政治のあり様が本書の執筆の動機の一つとなっていることは間違いないように思われる。


この本の著者リック・シェンクマンによるとアメリカには『人民の神話』なるものがあるという。その神話とは次のようなものだ。


p. 13

アメリカは、無条件に「アメリカ人は素晴らしく賢いもの」と信じた。本書ではこれを『人民の神話』と呼んでいる。

そして、この「神話」の存在を許したことによって、「アメリカは政治の道筋を曲げ、指導者の選択に限界をもうけ、イスラム過激派との戦いにおいて、自らを妨害し、アメリカの民主主義と、おそらくはアメリカ人の命までも、危険に晒してしまった」とシェンクマンは主張する。

 率直に言おう。
 これまで、アメリカ人は、自分たちの間違いを問い質すという仕事をしてこなかった。二〇〇一年九月十一日の同時多発テロ(9・11)という、新たな思考がもっとも必要とされていた出来事を経ても、アメリカ人は、「自分たちの知恵には難がある」という、厳しい現実に向き合うことを避けた。


本書の前半ではアメリカ人の「知恵」にどの程度「難があるのか」が示されている。著者の言葉を直接引けば「アメリカ人は、どのくらいバカであるか。」が示されている。例えば、

  • 日本に原爆を投下したのが自分の国(アメリカ)だと知っていたのは49%のみであるとか (p. 27)
  • 1991年に湾岸戦争が勃発した当時、パウエル統合参謀本部長や、チェイニー国防長官を認識できたアメリカ人は15%(p. 32)
  • イラク戦争開戦前夜、地図でイラクの場所を示せたアメリカ人は七人に一人(p. 196)


などなどが紹介されている。


こうした事例を読んでワーイアメリカ人馬鹿馬鹿ァと言って喜んだりすることも可能なのですが、実はこの本でちょっとオヨヨと思ったのは、アメリカ人がいかに馬鹿かという所ではなく(そこもまあ面白いけど)、アメリカにおいて「一般の人々(普通の人々)が馬鹿である」と主張することが半ばタブー化されていて、皆それに気付いていても誰もそれを公の場で口にすることができなくなっている、という点であった。

何百万人ものアメリカ人が、実は「普通の人々はバカ」だと思っているはずだ。大勢の人の前でなければ、言っている。(中略)ブログでも言う。プログは、私的な考えを発表する公的な手段だとみなされている。
 けれども、フォックス・ニュースや、昼のトーク番組や、全米ネットワーク局の夕方のニュースでは誰も言わない。(中略)マイケル・ムーアも、映画でも本でも言わない(著者『アホでマヌケなアメリカ白人』のなかで、「普通の人々はバカではない」と主張している)。


日本でも、「官僚は馬鹿だ」、「政治家は馬鹿だ」、「坂田はアホだ」などは耳にしますが、カメラ目線で「皆さんは本当にバカですね」と語るワイドショーのコメンテーターはいませんね。実際のところ、「あなたとあなたはまあギリギリ大丈夫だけど、あなたは馬鹿だからちょっと気をつけてくださいね」とかそんなこと言う人は馬鹿だと思われますからね。



嬉し恥ずかし民主主義のもとでは「われわれ皆」が王様だから、「ああぁ、あいつ裸だぁぁ」って言ってくれる人がいないんですよね。というような当たり前のことを改めて思っちゃったりしました。「実はさあ俺って王様なんだけど...。えっお前もかよ?」っていう感じですか。

 もし、世論調査の専門家に、「普通の人々は賢いと思うか」と聞かれたら、人は、その質問について慎重に考えるかもしれない。とはいえ、通常、有権者は、ほかの人のことをどう思うかと聞かれるものだ。自分のことをどう思うかとは聞かれない。「民主主義の責任をどのくらい果たしていると思うか、自分に点を付けてください」、と求められることは皆無だ。


本書はアメリカ人の著者がアメリカ人の馬鹿さ加減を問うたものではなりますが、本書の裏表紙に「われわれ日本人は大丈夫か?他人事ではない超問題作」とあるように、独裁国家にお住まいでない人にとっては他人事ではない内容となっとります。この本を読んで、ちょっと自分に点数を付けてみても罰は当たらないのかもしれません。



以下がこの本の目次です。アメリカ政治史のこぼれ話集としても面白かったです。

1 われわれアメリカ人は、なぜバカか
2 それにしたって、あんまり無知な!
3 アメリカ人は「非論理的」?
4 ”それ”は、ある「神話」から始まった!
5 「世論調査」は、大統領より偉い!?
6 テレビが「政治のルール」を変えた
7 どんどんバカバカしいことになっているアメリカ
8 「9.11」以後も止まったままの思考回路
9 どれほどバカか、言うのもツライ
10 果たして希望はあるのか?