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A.P.C. ジャン・トゥイトゥはかく語りき

宝島社のe-MOOK『A.P.C. Authomne/Hiver 2011-12  アー・ペー・セー日本上陸20周年スペシャルISSUE』を買ってしまった。付録につられて。


A.P.C. AUTOMNE/HIVER 2011-12 (e-MOOK)A.P.C. AUTOMNE/HIVER 2011-12 (e-MOOK)


宝島社
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まず、A.P.C.はジャン・トゥイトゥによって1987年に創設されたアパレルブランドであって、抗原提示細胞のことではないから注意する必要がある。ないけどよ。ブランド名の由来は、「生産と創造の工房(Atelier de Production et de Creation)」の略だそうです。かっこいいですね。でも「生産創造工房」ってロゴが入ったバッグじゃだめなんでしゃろ。プンプン。


この『A.P.C. Authomne/Hiver 2011-12』の中にデザイナーのジャン・トゥイトゥ氏のインタビューがあって印象に残ったのでワサワサと紹介します。ワサワサ。ワサワサ。

A.P.C.の根本にあるスピリッツについて教えてください。


A.P.C.が伝えたい事は必ずしも理解しやすいものだとは、思っていません。(略)ただ、はっきりとした何かはわからないかもしれないけど、言葉の壁を超えて感じることができるものだと思っている。例えば、15歳の子がボブ・ディランの曲を聴いて、すべて理解できたというわけではないけど、何かを感じてファンになるようにね。自分の思っていることを全て正しく理解してもらえるわけでもないんだけど、伝えたい事を感じてもらえる。それはコミュニケーションのミラクルだと思っている。」

先日、久しぶりにビートルズのCDを聴いていたら子どもたちがワサワサと近づいてきて「この歌なんていう歌?」と訊いてきた。


「ヘイ・ジュードだよ」
「えっ、柔道?」
「えっ?」
「えっ?」


というミニコントもはさみつつ、しばらく親子でビートルズを聴いていたら不思議な気持ちになった。わたしも小学校高学年だっただろうか、兄が借りてきた「プリーズ・プリーズ・ミー」を聴いて「なんじゃこらあぁぁぁ」とミニ松田優作になったことを思い出した。時を経て自分の子供がミニミニ優作になっているのだろう。


「はっきりとした何か」ではないものを、はっきりと感じる能力というのは人間性が放つ最も奇妙な光のひとつなのかもしれない。外野からみるとはっきりインチキとまでは言えないまでも怪しさプンプン産地直送なことが、渦中にいる人間にとっては他に選びとりようもないほど確からしいものとして感じ取れるということがある。あるある。バチーンと雷に打たれてしびれてしまう瞬間がある。あるある。それは人間を動かす巨大なエネルギーになる。なるなる。でもそれが行き過ぎて、スピリチュアル系に「転落」していく人もいる。いるいる(済まんスピリチュアル)。


残念ながらボブ・デュランやビートルズを聴いて何かを感じることと、スピリチュアルっぽいものとの間に横たわる境界がどれくらいはっきりとしたものなのか私には正直よく分からない。あやふやな境界のどちら側に足を突っ込んでいるのかすら分からないまま、気付けば自分が子どもを持つ立場になってしまい、かなりの部分を直観で決めている。ああ恐ろしい。でも「コミュニケーションのミラクル」の負の面を知りながらも(済まんスピリチュアル)、夢中でビートルズを聴いている子どもを見ていると「コミュニケーションのミラクル」の肯定的な面をやはり信じたくもなる。


話が逸れている。


あらよっと。 ←話を戻した



個人的には、ジャン・トゥイトゥの世界には、塩もふらず海苔も巻かずに延々とシンプルなおにぎりを売り続けているような凄みを感じていますが、それは多分たんなる誤解ですね。コミュニケーションのミラクルが起きず済みません。それはさておき同じインタビューでトゥイトゥさんは次のようにも語っています:

僕は、神様も信じていないし、学問としての哲学も信じていない。そうなると、自分ですべて問題を解決しなくてはいけません。だって、人生は非常に過酷で、不条理に折り合いをつけなければならないから。20年近く考えて結論に達した言葉が “Good Luck” なんです。


やっぱり、塩もふらず海苔も巻かずにおにぎりを売り続けるのも大変だけど、前向きに頑張ろうぜっていうことなんですね。


という結論にしたらシバカレますか。そうですか。



面白いのは、Good luckと言う一方で、次のようにも述べている点だ*1

一言で言えば、”戦え!”です。今の日本は、残念ながら楽観視できることが少ない。(中略) 特に若者たちが、本当に目を覚まして、しっかり目を開けて今起きていることを見て欲しいと言いたいです


一方でGood luck、他方で戦え。なんなんですか。でもよく考えると、わたしたちは、自分の人生についても他人の人生についても究極的にはGood luckとしか言えないのかもしれないけれど、それは全てに対して無力なのかというとそうではなくて、お腹をすかしている人がいればおにぎりを握ってあげることくらいはできるかもしれない。おにぎりから離れた方がいいですか。そうですか。でもそういうことでしょ。


このインタビューは、ここで引用した部分以外にも、例えば「A.P.C.にとって一番大事なことはなんですか?」とかいう質問もあって、それに対する答えも味わい深いものでした。もう少し長いインタビューだったらもっと良かったけど。


それからインタビュー以外にも、A.P.C.のパリのアトリエが紹介してあったり(スタッフが美男美女ばかりでびびる大木)、A.P.C.の生地の残反から生まれたキルトのプロジェクトについてのインタビューがあったりと、なかなか楽しめました。



さらに超ついでに言っておくと、ビートルズには反応した我が子でしたが、その後でボブ・デュランを聴かせたら「この人、歌う前にのど飴舐めた方がいいね」だって。親切な日本人はボブ・デュランにのど飴を送ろう!

*1:このインタビューが3月11日以前に行われたものなのか、以後に行われたものなのかは記載がなかった