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『デザインの輪郭』を読んで元気になるライフハック

読書 デザイン


工業デザイナーの深澤直人さんが書かれた『デザインの輪郭』という本が大好きです。デザインについて語られた本ですが、表紙に「デザインはすべての生き方に通ずる」とあるように、わたしのようにデザインを専門にしていない人間でもドキドキしながら読めます。


目次
はじめに/デザインの輪郭/選択圧/張り/考えない(without thought)/行為に溶けるデザイン/俳句/対談 深澤直人+山口信博+小泉佳春/ふつう/対談 深澤直人+山口信博+小泉佳春/そのものの周り(外側を見る)/手沢/最小限で生きる/「ほら、ね」感覚(同じ感動をさせてあげたい)/アノニマス/使っ ていなかった触角/あたりまえの価値/灰汁/意図を消す/感動の因子/ゆで卵/デザインは好きで、デザイン活動はきらい/デザインメディア/デザインを教 える/幸せの現象/短命なデザイン/デザインを頼む人/アイデアの固まるとき/対談 深澤直人+山口信博/アイデアとエクスキューション(出来映え)/ただひとつの答え/誰のアイデア/適正解/デザイン体質/情報と経験/うちのスタッフと /オフィスの掃除/イタリアの仕事/子供の頃(表現と再現)/週末小屋/単純に生きる/もてなすということ/対談 深澤直人+山口信博/自分を決めない/蜩の声 山口信博/おわりに



どの章を取り上げても本当に面白いのですが、「考えない(without thought)」という章は特に感動しました。


p. 44-5

傘立てがなくて、たまたま床にタイルが敷かれていて、その幅七ミリ程のタイルの目地に傘の先をあてて壁に立てかけるということは、きっとほとんどの人が無意識にする行為だと思う。
(略)
その、幅七ミリ程の目地と同じような溝を、玄関の隅に壁から10センチ程離して壁と平行に引けば、傘立てになると思った。訪れた客は傘立てらしきものが見当 たらないので、その溝に傘の先をあてて立てるだろう。私は傘立てをデザインし、客は結果的に傘を立てるという目的を達したことになる。しかし、そこにはよ くあるような、円筒のような傘立てらしき物体の存在はないということだ。デザインは存在し、目的も達しているが、物体は消える。これは「行為に溶けるデザイン」ということだなと思った。


この部分を読むと鮫肌のあなたも鳥肌がたつのではないでしょうか。あなたが新宿在住だとすると、新宿鮫が新宿鳥になる感覚です。ほらシャークがバードになるあれですね。


そしていろいろ唐突で恐縮ですが、この本の後ろのほうに出てくる「子供の頃(表現と再現)」という章にうつります。以下に引くエピソードは深沢さん御自身の少年時代の体験を語ったものです。

小学校一年生の社会科か何かのテストのときに、○X式の答案用紙に○とXをまずアウトライン化して一ミリくらいの太さの文字にしてから塗りつぶしていたことを覚えている。たぶんゆっくり、丁寧に塗りつぶしているから、先生は見かねて、提出の時間を過ぎてもそのまま続けていていいといってくれたのだと思う。先生がそれを許してくれたことがとても嬉しかったことを覚えている。


この先生が鮫肌かどうかはわたしには分かりませんが、このエピソードを読んでまた鳥肌がたちました。*1「先生」はなにか具体的に「こうしなさい」と指示したわけではないし、「頑張れ」とさえ言っていない。ただ「許してくれた」だけだ。「多めに見て」くれて、本当に「そのまま」にさせてくれただけだ。でも深澤少年はそれがとても嬉しくて、数十年後に自著の中で披露している。「才能の芽を守る」というのが教育の目的のひとつだとすれば、この先生は「何もせずに」目的を達しています。


こどもを見ていると、特に誘導したわけでもないのに、ある種の活動に異常なほどの執着を示すことがある。それをしていると本当に熱中してほっといたらいつまでも続けようとする。こどものそういう姿には、ある種の神々しさがあると思う。それは言語化することは難しいのだけども、「ああ、これがこの子の核になる部分なのかな」と「無意識に」に感じとれるものなのではないかとも思う。



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話は前後しますが、最初に引いた「without thought」というのは、深澤さんが1998年におこなったデザインワークショップのタイトルだそうです。この本では、そのワークショップで提示される課題も具体的に紹介されていて、これが面白い。


ひとつめの課題は「オブザーベイション」。中身の詳細は省略しますが、参加者はこの課題を通じて、日常のありふれた行為の中に、「細かな無数の事象とその無意識の記憶が散りばめられていることに気づき、その中の顕著なものを探し当てることがデザインのきっかけになるということを体験から理解する」。


ふたつめの課題は「Found object」。これは、例えばスプーンや鉛筆など誰もが知っているものから発想して、別のものをデザインする、という課題。どういう意図であるか、少し引用すると

Found objectとは、「その場で見いだされた道具」という意味である。鉛筆はそのときは、書く道具ではなく頭を掻く道具として見いだされたかもしれないということである。人間は、頭で考えた概念で環境と関わっているのではないということを、この課題をもって参加者に知らせたいのである。


この「オブザーベーション」と「Found object」というのもデザイン以外の分野でも役立つ場面があるように思う。ごく日常的で「自然な」行為の中に面白さを見出す力。醜さの中に美しさを見る力。短所を長所に読み替える力。そういう能力というのは、ある種の訓練によって向上するものなのかもしれない。この本を読んでそんなことを思ったりもした。


そして、三番目の課題は、テーマだけが与えられてワークショップでの経験をもとにデザインするのだそうです。それぞれの課題について、参加者がどういう隘路に陥りやすいのかが具体的に書かれていてとても面白いです。ちなみに、この第一回目のワークショップで深澤さん御自身も作品をデザインしており、それがあの有名な換気扇のようなかたちの壁掛け型のCDプレーヤーなんだそうです。もち肌のあなたもひょっとすると鳥肌がたったのではないでしょうか?*2


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最初にも言いましたが、デザインについて語られた本ですが、わたしのようにデザインと関係ない仕事をしている人にとっても、いろいろなアイデアの種が詰まった一冊だと思います。とにかく面白いです。ポプラ社なら100万部はいってたと思いますね。がんばって!TOTO出版

*1:鮫肌なのに。

*2:トリモチだ!